第2回東海CS決勝戦
S.S(愛知) VS maru(新潟)
Writer:バートレット
前日に行われたDMGP9thに引き続いて、ここ静岡県で行われた東海CS。
幾多のドラマが生まれ、数多くの名勝負が繰り広げられた。
そこはまさに、戦いの熱に飢えたデュエマプレイヤーたちのヴァルハラだ。
そして、今。
熱き2日間の熱狂を総括するかの如き、文字通りの最終決戦。この日一番強い者を決めるべく、ここまで生き残ってきた2人のプレイヤーによるラグナロクが始まる。
「GPでは5-0から0-3やらかしたんで……ここまで来て負けたくないっすね」
そう意気込みを語るのは、カバレージライターシートから向かって左側に座るS.S。
愛知県を中心に活躍する若き無双の侍。
好きなカードは《蒼き団長ドギラゴン剣》と語る。こだわりは「好きなカードを使っていくこと」。その言葉通り、数多くの戦いを【クローシスバスター】で戦い抜いてきた。
だが、そのクローシス剣は《蒼き団長ドギラゴン剣》の殿堂入りによってトップメタから転落して久しく、その面影を追うように【シータミッツァイル】を手にする。
強い動きを押し付けていくことが出来るこのアーキタイプは、まさに【クローシスバスター】の正統後継者と言えるだろう。
そして、ここまでの戦いでは準決勝2本目を除く全ての戦いで無敗。
無双の侍、絶対王者の称号を得るところまであと一歩。
「僕もGPが悔しかったんで、雪辱を晴らしにここまで来ました」
S.Sの言葉に頷くのは、もうひとりの決勝進出者maruだ。
普段活動する新潟を離れ、静岡へと天下を取りに訪れた猛将。
maruは《ベイBジャック》、《邪帝斧ボアロアックス》がかつての相棒だった。これらを使用したループデッキである【緑単サソリス】はさぞ手に馴染んだことだろう。
しかし、「デュエマを遊ぶ上でのこだわりは無い」と語る彼が持ち込んだ今日のデッキは【赤単ミッツァイル】。彼のフェイバリットアーキタイプである【緑単サソリス】とは異なり、速攻で相手を討ち取るビートダウン。
調整メンバーに勧められて手にしたそのデッキは、maruをここまで導いてきた。慧眼と言えるアドバイスだが、果たして彼を優勝へと導くのか。
越後の猛将maru、全国ランキング100位の大台を目指して、最後の戦いへと赴く。
伝説は終わらない。そこに戦いを求め続ける者がいる限り。
第2回東海CS決勝戦、それは新たな伝説を紡ぎ出す戦いだ。
1戦目、予選順位の高いS.Sが先攻。序盤から多色マナを置いていく。
だが、【赤単ミッツァイル】を擁するmaru、1ターン目から《螺神兵ボロック》を召喚。2ターン目からのビートダウンを狙う、殺意の高い一手を仕掛けていく。
一方のS.S、《フェアリー・ライフ》でマナブースト。《螺神兵ボロック》をどかせるだけの領域にたどり着けなければ、maruが率いる赤いクリーチャーたちが一気に襲いかかってくるのは必定。マナを伸ばし、速攻を凌げる一手を用意できるか。
maru、2ターン目に《一番隊チュチュリス》を勢いよく出していく。そして《螺神兵ボロック》の一撃がS.Sのシールドを叩き割る。S.Sの身を守る儚い盾は残り4枚。ここで一手でも遅れてしまうと、いずれ全ての盾をブレイクされ、そのまま圧殺されてしまうだろう。
一方、maruも《螺神兵ボロック》だけで攻めきれるわけではない。
今彼が対峙するデッキは【シータミッツァイル】。シータカラーとはMagic:The Gatheringの「ボルバー」と呼ばれるクリーチャー群の一体、《シータボルバー》に由来する。自身は青でありながら赤や緑のマナを行使するところから、いつしか青・赤・緑の組み合わせを「シータカラー」と呼び習わすようになった。
そして、そのデッキを構成する「青」、加えてGR召喚で登場する可能性のある「白」は、《螺神兵ボロック》の明確な弱点だ。S.Sの場に青または白のカラーを持つクリーチャーが出された瞬間、《螺神兵ボロック》は自身のデメリット効果によってその生命を散らしてしまうのだ。
果たして、S.Sの第3ターン。《知識と流転と時空の決断》をキャスト。発揮される効果として、GR召喚と1体バウンスを宣言する。
S.Sにとっては賭けだった。青か白のGRクリーチャーを出せれば2面除去となる。GR召喚によって出てきたのは……《マグ・カジロ》。青のクリーチャーだ。《螺神兵ボロック》はここで自らのデメリット効果によって沈み、続いて発揮されるバウンス効果で《一番隊 チュチュリス》も手札に強制送還される。
しかし、maruは怯まない。まだだ、まだ間に合う。maruの第3ターン、《一番隊チュチュリス》が2体並び立つ。これで彼が擁するビートジョッキーたちは次のターン、コストが2下がった状態で次々と場に出てくることになる。手札は残り2枚。現代の赤単は、手札は減っている方が都合がいい。双極篇より登場した赤の一部カードが持つキーワード効果「G・G・G」は、手札が1枚以下の場合に発揮される効果だからだ。
再び油断ならない状況に置かれたS.S。《フェアリー・ライフ》でマナを伸ばし、そして《知識と流転と時空の決断》のドロー効果を一切使っていない関係上、彼の手札の残りは3枚。《螺神兵ボロック》のシールドブレイクによって手札消費こそ抑えられているが、対抗手段は心もとない。
だが、ここでS.Sの場に《スゴ腕プロジューサー》が姿を現す。自身は3000のブロッカーであり、バトルゾーンに出た時と離れた時にGR召喚を行う。【赤単ミッツァイル】相手ならば、チャンプブロックした場合の仕事もしっかり果たす、その名の通りスゴ腕の男。ただ、GR召喚されたのは《マリゴルドIII》。未だS.S.のマナゾーンは5枚のため、ここでは仕事ができない。
《マグ・カジロ》、お返しとばかりに殴りかかる。《マグ・カジロ》はアタック時効果で手札の呪文を使用できる。この効果の行使を宣言、キャストしたのは《本日のラッキーナンバー!》。
「宣言は9で」
S.Sは迷いなくそう告げる。9コストで警戒すべきは返しのターンの《BAKUOOON・ミッツァイル》、そして赤単の除去札《爆殺!! 覇悪怒楽苦》。バトルゾーンが壊滅する可能性を限りなく減らしていき、さらに次のターンの強い動きを阻害する。
一矢報いたかに見えたS.S、だが越後から来た軍神maru、タダでは起きない。
軽減されたマナから現れたのは《GIRIGIRI・チクタック》。相手のシールドを4枚以下に削っているため、GR召喚が可能だ。戦の気配を察知し、駆けつけてきたのは《ドドド・ドーピードープ》。横にはさらなる《一番隊チュチュリス》が並び立ち、手札は1枚。そしてそこからなんと、maruはマナを倒さず、その1枚をバトルゾーンへと放り込んだのだ。
そう、かつて環境で暴れ、ついに殿堂指定を受けた赤単史上最強のキラーカード、《”轟轟轟”ブランド》が最前線に放たれてしまったのだ。
その効果で1枚ドローし、その後手札を1枚墓地に捨てることで相手の9000以下のクリーチャーを破壊する。maruは相手の手札枚数を確認する。1枚だ。
maruは意を決して引いてきた手札を墓地に落とした。標的は《スゴ腕プロジューサー》。S.S、頼みの綱であるブロッカーを失ってしまう痛恨の展開だ。
S.S、《スゴ腕プロジューサー》の破壊時効果を宣言し、GR召喚。ここで何か起死回生の一打が欲しい。だが、GRゾーンからやってきたのは《マグ・カジロ》。すぐには仕事ができない。
しかしmaruもこのターンで勝負を決めにかかるほど性急ではない。先程アタックしてきた《マグ・カジロ》を《”轟轟轟”ブランド》のアタックで落としてターンを終える。
2面除去。それも、展開の要になる《スゴ腕プロジューサー》を失った。S.S、険しい表情で盤面を睨みつける。次のターンを許せばこちらの命はない。
5マナと盤面の2体のGRクリーチャーを代償に、《BAKUOOON・ミッツァイル》が飛び出してくる。まだだ。GRクリーチャーの出方次第では容易にひっくり返せる。
だが、しかし。その呼び声に応えたGRクリーチャー2体は《天啓CX-20》、そして《”魔神轟怒”ブランド》。この土壇場で噛み合わせの悪い2枚。
返すターンで、毘沙門天maru、呼応するかのように引いてきた《BAKUOOON・ミッツァイル》を召喚。両者ヘッドオン、ミサイルの撃ち合いの格好だ。2体の《一番隊チュチュリス》を代償に2回のGR召喚。出てきたGRクリーチャーを含む炎の軍勢は、S.Sの首級を挙げるべく次々に殺到していく。
S.S、飽和攻撃を捌ききれず、そのまま崩れ落ちた。
S.S 0 - 1 maru
かつて、ジョン・ボイドという軍人が提唱した「機略戦」という概念がある。機動力と意思決定の速度を活かして常に敵から先手を取り続け、相手が不利な状況を継続的に押し付けるのがその要諦だ。自分の意思決定の時間を可能な限り短縮し、常に優位に立ち続けることで相手に対応を強要させ続ける。ボイドは戦闘機乗りとしての経験から、この理論にたどり着いた。
デュエマにおいてその機略戦の概念を最も強く体現しているのが赤単の速攻だ。そして、maruは常にS.Sに対応を強要し続けた。S.Sは自分が持つリソースを相手への対応に費やさざるを得なかったのだ。
電撃的な奇襲で勝利を掴み取った越後の毘沙門天、maru。東海CSのタイトルに王手をかける。この日、この場所で天下をとるのは俺だ。その気迫がシャッフルをする姿から感じられる。
一方で、後がなくなったS.S。その表情は険しい。
S.Sは強い動きを押し付けられるという利点から、この【シータミッツァイル】を選び、事実その容赦のない動きで、ここまで全ての戦いを制してきている。だが、その【シータミッツァイル】が後手後手に回らざるを得ないアーキタイプ、それが【赤単ミッツァイル】。しかし勝機はある。猛攻を凌ぎ切れば、そこから先は自分のペースで戦える。息切れしたmaruを仕留められる。
互いに《BAKUOOON・ミッツァイル》を擁するデッキ同士の戦い。ミサイルを抱えて相手のスキを突いて、一瞬で倒す。お気づきだろうか。その過程を形容するなら、これはまさしく、戦闘機同士のドッグファイトだ、ということに。
maruとS.S、両雄は再び激突する。卓上でありながら、その戦場は大空に形容できる。そう、雲ひとつなく、即ち全く逃げ場のない、大空に。
眼下に霊峰・富士山がそびえ立つ、エース同士の戦場。交戦規定は眼前の敵の撃墜、それだけだ。
愛知から来た剣客S.S、2本目も先攻。
だが、この戦いにおいて先手後手は容易に入れ替わる。maruが早い段階で動いてくる異常、序盤の動きを一歩間違えてしまえば命はない。S.Sは一瞬たりとも油断ができない。手札に目を走らせ、慎重にマナへ置くカードを選ぶ。
置いたカードは《機術師ディール》。《螺神兵ボロック》を防ぐためにも、早い段階で水のクリーチャーを出したい思いがこの初手に現れたか。
一方のmaru、今回も電撃的な滑り出しを見せる。赤の1マナが早速タップされ、手札から雄叫びを上げて戦場に降り立つ赤単の要、《凶戦士ブレイズ・クロー》。
驚異的な速度でS.Sの喉元に刃を突きつけた格好だ。
S.S、2回も後攻第1ターンから動かれたことで表情が強ばる。しかも、《螺神兵ボロック》と違い、《凶戦士ブレイズ・クロー》は水や光のクリーチャーを出すだけでは倒せない。毎ターンアタックをしなければならないデメリットこそあるものの、対処には除去を行うか、殴り返しで落とすか、ブロッカーを構えるかの三択だ。
対処を迫られるS.S。だが、現時点で打つ手がない。S.Sの第2ターンは多色マナをチャージするに留まる。
maruの第2ターン、1回戦と同様に《一番隊チュチュリス》が登場。彼の手つきに淀みはない。《凶戦士ブレイズ・クロー》に攻撃を命じる。
だが、S.Sに救いの手が差し伸べられた。《凶戦士ブレイズ・クロー》がブレイクしたシールドからS・トリガー《フェアリー・ライフ》、超動。S.Sのマナを3に伸ばす。次のターンのマナチャージでマナは4に達する。《知識と流転と時空の決断》および《DROROOON・バックラスター》に手が届いた。
しかし未だ予断を許さない状況だ。先攻第3ターン、S.Sは慎重に先を読み、このターンどう動くかを検討する。この局面、まだ試合の主導権はmaruが握っている。次のmaruはどう動いてくるか。それを読み切り、反撃に転じる必要がある。
S.S、最大の岐路があるとするならば、それがここだ。
思考を整え、S.Sがキャストしたのは、《知識と流転と時空の決断》。S.Sは1戦目と全く同じ手を選んだ。GR召喚で登場したのは《天啓CX-20》、そしてバウンス対象は《一番隊チュチュリス》。だが、《天啓CX-20》のマナドライブは発生しない上、maruの場には《凶戦士ブレイズ・クロー》が残る。次のターンに自らの命を代償に再び襲いかかってくるであろう《凶戦士ブレイズ・クロー》が。
そして返すmaruの第3ターン。やはりと言うべきか、《一番隊チュチュリス》が再登場。さらに、奇しくも1戦目と同様、2体目の《一番隊チュチュリス》も飛び出してきた。これに加えて命知らずの《凶戦士ブレイズ・クロー》が1点を刻む。
次のターンに《天啓CX-20》で返り討ちにできるとはいえ、これはかなり痛い。S.S、命札とも言うべきシールドは残り3枚。
だが、続くS.Sの第4ターン、ここでS.Sのマナは5に到達する。そう、反撃の狼煙を上げるべく、ついに展開の要が動き出す。maruの手を綻ばせる一手、それは《Waveウェイブ》の召喚だ。
放たれる墓地の呪文は《知識と流転と時空の決断》。《一番隊チュチュリス》2体を手札へと追い返し、さらに呪文を唱えたことによってGRクリーチャーがさらに1体展開される。駆けつけてきたのは《ダダダチッコ・ダッチー》。準決勝では幾多もの番狂わせを演じたが、今回マナドライブは不発。だが《BAKUOOON・ミッツァイル》の召喚に必要な頭数を増やすという仕事はできる。
《天啓CX-20》が《凶戦士ブレイズ・クロー》を討ち取り、maruの盤面からクリーチャーは消えた。S.S、攻守交代まであと一歩だ。
maruの第4ターン、クリーチャーが一掃されたとはいえ、彼の闘志は未だ消えていない。力強い手つきで2体の《一番隊チュチュリス》を再召喚。残るマナは1。そしてここで登場するのは、ビートジョッキーの登場以来その戦いを支えてきた屋台骨、《”罰怒”ブランド》。《一番隊チュチュリス》の軽減とマスターB・A・Dの効果でわずか1マナを支払い登場する。この瞬間、《一番隊チュチュリス》はスピードアタッカーを得る。
maruはそのままS.Sへ引導を渡すべく攻勢に出る。《”罰怒”ブランド》のW・ブレイカーと《一番隊チュチュリス》2体、合計の打点は4。3体のビートジョッキーがS.Sの首級を狙う。勝負あったか。S・トリガーが出ないことを祈り、思わず手を合わせる。残るは天運のみ。ここまで彼を勝利へと導いてきた越後の軍神・毘沙門天の加護が通じるか。
《一番隊チュチュリス》が1枚割ったシールド。S・トリガーはない。
《”罰怒”ブランド》が2枚割ったシールド。S・トリガーは、ない。
だが、無双の剣士S.Sは攻守をひっくり返す決定的なカードを抱えていた。2体目の《一番隊チュチュリス》のダイレクトアタック宣言と同時に、S.Sは手札から1枚のカードをバトルゾーンに叩きつける。それこそが《光牙忍ハヤブサマル》。場のクリーチャー1体をブロッカーへと変える。そして、彼がブロッカーとして選択したのは《光牙忍ハヤブサマル》自身。《一番隊チュチュリス》はその身を散らし、《光牙忍ハヤブサマル》はデッキボトムへと消える。
蒼穹に舞う若武者S.Sが見せたギリギリのカウンターマニューバに、ギャラリーは静かに息を呑む。
最後の一撃を阻まれ、マスターB・A・Dの効果の代償としてもう1体の《一番隊チュチュリス》を破壊したmaru。場にクリーチャーは1体のみ。そう、この瞬間、ドッグファイトの趨勢は変わった。身を削る覚悟で逆転の一手を打ったS.Sの手で、追うものと追われるものの関係が逆転。
そして、S.Sの第5ターン。マナは6へと達する。
2体目の《Waveウェイブ》が繰り出され、《知識と流転と時空の決断》を唱える。効果は2回ともGR召喚。《Waveウェイブ》2体の誘発効果を含めて、4体ものGRクリーチャーが場に放たれた。その中にいたのは《マリゴルドIII》だが、ここで効果は使用しない。そう、まだ後続がいる。ここでマナドライブを使用してしまえば、後続のマナドライブが使えなくなる。
そして最大限に軽減された状態でmaruに向けて放たれるのは、必殺のサイドワインダー、《BAKUOOON・ミッツァイル》。2体の《Waveウェイブ》を含む7体のクリーチャーを破壊して1マナで召喚、新たに7体のGRクリーチャーを再展開。破壊した中には《ロッキーロック》がおり、場を離れたときの効果も誘発する。
再展開したうち、1体は《”魔神轟怒”ブランド》。同時に《ロッキーロック》、《ダダダチッコ・ダッチー》が展開されている他、前段階で《BAKUOOON・ミッツァイル》と《ロッキーロック》を出しているため効果が誘発している。これによりパワーアタッカー+6000とW・ブレイカー、スピードアタッカー、アタック時に自分のクリーチャーが全てアンタップする能力が付与される。その力がフルに発揮される状態だ。
さらに、誘発しているクリーチャーは4体。《ダダダチッコ・ダッチー》によってデッキトップから《Waveウェイブ》がデッキから呼び出され、さらに2体の《天啓CX-20》による6枚ドロー。そして《マリゴルドIII》がマナから打点として《霞み妖精ジャスミン》を呼び出す。
一斉に攻撃を仕掛けるS.Sのクリーチャー。ダメ押しとばかりに《マグ・カジロ》が《本日のラッキーナンバー!》を唱える。宣言は3。
殺到するS.SのGRクリーチャー軍団。その圧倒的な物量は、maruを爆炎の彼方に葬り去るに十分であった。
蒼穹の若侍S.S、薄氷の勝利で3戦目に望みを繋ぐ。
S.S 1-1 maru
これぞデュエル・マスターズ。これぞ最終決戦。
攻守はふとしたきっかけで入れ替わる。繰り返される攻守交代が描く二重螺旋。この地球の生きとし生けるものが持つDNAに刻まれた闘争本能と、人類が進化の過程で得た知恵と知識。そして、予選8回戦、本戦4回戦という長丁場を戦い抜く体力と精神力。そして、最後の最後の土壇場で勝敗を分かつ運否天賦。
人間という生き物が吐き出せる全ての能力を、今この両雄は最後まで燃やし尽くさんとしている。そう、その全ては眼前の相手に勝つために。勝ってこの場に集った256人の猛者の中で、自分こそが最強の生命体であることを証明するために。
両者ヘッドオン。3戦目の幕が上がる。
越後の猛将maru、今回は先攻スタート。だが、前2戦と違い、今回は1ターン目は動かなかった。
今回後攻に回った愛知の剣客S.S、こちらも1ターン目は動かない。
先攻第2ターン、maruは《一番隊チュチュリス》を召喚。エンジンに火が入る。
S.Sは返すターンで《鼓動する石版》。マナは3に伸びる。形は違えど、両者いずれも次のターンで合計4コストまでのアクションが取れる格好だ。
maruの第3ターン、《一番隊チュチュリス》でコストが軽減された《DROROOON・バックラスター》を召喚。《ブルンランブル》が並び、《一番隊チュチュリス》でS.Sのシールドを1枚ブレイク。
しかしS.S、このシールドブレイクでS・トリガー《フェアリー・ライフ》が発動。マナは4に伸びる。次のターンでマナは5。選択肢は一気に広がった。
だが、ここで何か見落としがあればそのまま決められかねない。maruの場にはクリーチャーが3体並んでいる。その意味ではここが正念場だ。
S.S、考え抜いた末に《DROROOON・バックラスター》を召喚。GR召喚は《マグ・カジロ》。GR召喚したことで《DROROOON・バックラスター》の効果が誘発、《一番隊チュチュリス》と自身をバトルさせる。展開の要を処理した格好だ。
そして迎える先攻第4ターン。maru、ここでマナチャージを放棄。2マナを倒して《GIRIGIRI・チクタック》を召喚する。相手のシールドは4枚、GR召喚可能だ。現れたのは《グッドルッキン・ブラボー》。GR召喚の誘発効果により、互いの《DROROOON・バックラスター》を対消滅させる。そして、残りの手札は2枚。1マナを倒し、マスターB・A・Dにより6コスト軽減された《”罰怒”ブランド》が登場。そして残りの手札1枚が、マナを使用せずに盤面に叩きつけられる。
《”轟轟轟”ブランド》、マスターG・G・Gの効果で登場。新章環境と双極環境の赤を引っ張ってきたダブル「ブランド」が今、戦場に並び立つ。
その威容を前に、さしものS.Sも目を見開いて驚嘆する。
先攻第4ターンのメインフェイズが終わる。バトルフェイズ、《”罰怒”ブランド》がまず2枚のシールドを削るべくアタック。が、ここでS.Sはすぐにシールドブレイクの処理に入らず、
「考えます」
と一言伝えた。
そう、S.S、このとき手札には2戦目と同様に《光牙忍ハヤブサマル》を抱えていた。しかし、今回はどこを止めても致命の一撃、ダイレクトアタックが飛んでくる。
S.S、考え抜いた末にこの攻撃を受けることを選択。
ダブルブレイク。シールドは手札に移動。何も起こらない。
maru、続けて《”轟轟轟”ブランド》に攻撃を命じる。ここだ。ここを止めるしか無い。S.Sが手札の《光牙忍ハヤブサマル》でこれを受ける。
《グッドルッキン・ブラボー》が続く。ブレイクは1点。マナは3しかない。
「アンタップはしないんですよね?」
「アンタップしません。マナが3しかないので……」
両者、《グッドルッキン・ブラボー》のマナドライブが発動しないことを再確認する。
「1点……ッ!!」
maru、ブレイク対象のシールドを指した指が震える。
「《スゴ腕プロジューサー》……ッ!!」
S.S、祈りを込めて彼の望むカードの名を呼ぶ。
シールドが、シールドゾーンから離れる。
S・トリガー、発動……なし。
アタッカーは残り2体。《GIRIGIRI・チクタック》と《ブルンランブル》。
シールドは残り1枚。《光牙忍ハヤブサマル》はすでにない。
静寂の時。それは祈りの時だ。
互いの思いが、願いが、そして執念が交錯する。
勝ちたい、とmaruは願い。
ここで負けたくない、とS.Sは願った。
《GIRIGIRI・チクタック》、地を蹴って飛び出す。S.Sの最後のシールドが割れる。
S.Sは、そっとそのシールドを表返した。
「S・トリガー……!」
そのS・トリガーは。
「……《フェアリー・シャワー》……ッ!」
そう、確かにS・トリガーは発動した。だが、それは、S.Sの状況を好転させることはなかった。
《ブルンランブル》が大将首を取るべく飛びかかる。S.Sは、憑き物が落ちたように手札を置いた。
「……通ります」
ここまで、全ての試合を勝ち進んできた無双の侍、S.S。だが、彼は毅然とその結果を受け入れ、まっすぐ相手を見つめ、自身が負けたことを宣言した。
S.S 1 - 2 maru
第2回東海CS、全試合終了。
優勝──”越後の毘沙門天”maru。
試合が終わり、固い握手を交わす両雄。maruも、S.Sも、長きにわたる戦いの健闘を労った。
「いやー……今は素直に嬉しいです」
筆者に現在の心境を問われ、心地よい疲れと勝利の実感がないまぜになった笑顔を浮かべるmaru。当座の目標として語っていたのは「DMPランキング全国100位以内を目指すこと」。256名規模の東海CSで優勝したことにより、彼が手にしたポイントによって合計は10000ポイントを超える。そう、全国100位圏内に入ってしまった。彼の掲げる目標は、それを語ったまさに今日この日、達成できてしまったのだ。
「昨日の雪辱って意味でも、今日勝てたのは大きいですね」
GPの悔しさをバネに、ここまで来た。それが報われた瞬間だった。
ただ、やはりあのシングルブレイク2連発の際は内心恐怖していた。あんな怖いシングルブレイクはもうゴメンです、と苦笑する。
2本目のS.Sが繰り出した《光牙忍ハヤブサマル》は寝耳に水だったらしく、その恐怖がチラつく中での3本目の最終ターン。その恐怖と不安は察するに余りある。
その一方で、S.Sも試合を振り返る。
「いやホント、1枚でも《スゴ腕プロジューサー》が出てればと思うと悔しいですよね。それと《”轟轟轟”ブランド》が突然出てくるのがね……」
苦笑しながら彼を最後まで苦しめたカードの名を挙げるS.S。だが、その表情はどこか晴れやかだ。テーブルを片付けながら、彼の瞳は次の戦いを見据えている。蒼穹の侍S.S、その戦いは終わらない。
全ての記録を終え、棋譜をとっていたパソコンを閉じて立ち上がった筆者に、maruが手を差し伸べてきた。
「お疲れさまでした。ありがとうございました」
ここまでの激闘を記録し続けた筆者への言葉だろうか。その言葉に嬉しくなる。
「ありがとうございました。いい試合でした」
筆者はその手を取り、maruと固い握手を交わす。
越後の毘沙門天maru、彼の熱き戦いに祝福と感謝を込めて。
第2回東海CS、それは伝説を忘れられない者たちによる、熱の残滓。だがその熱がまた炎となって燃え上がり、それは人々の記憶によって天高く撃ち上げられ、夜空に輝く綺羅星となる。後に残った残り火が、また次の熱狂の種火となる。
伝説は、案外こうやって残り、続いていくものなのだろう。
いつか、また。
この熱の残滓が、新たな炎を生む種火になることを。
そしてその炎が天高く舞い上がり、星として永久に残り続けることを。
今はただ、秋の夜空に願うとしよう。